研究紹介

なぜ音楽はストレス反応と関係すると言われるのか?

アメリカ、スイス、イタリアの音楽研究を、大学名・国名・日本語訳つきで整理し、ヒーリングピアノに使える範囲をやさしくまとめます。

この研究ページで扱う疑問

「音楽はストレスに効く」と言われることがあります。けれど、研究を読むときは、すぐに信じるよりも、まず次の点を見るほうが安全です。

  • どこの国や大学の研究か
  • 何人が参加したのか
  • 音楽と何を比べたのか
  • 心拍、呼吸、気分など、何を測ったのか
  • 原文ではどこまで言っているのか

ここを確認すると、「音楽が効く」という大きな話ではなく、「この条件ではこういう変化が見られた」という読み方ができます。

アメリカ:保健科学ユニフォームド・サービス大学のショイフェレ研究

2000年に、米国・保健科学ユニフォームド・サービス大学(メリーランド州ベセスダ)のピーター・M・ショイフェレさんが発表した研究です。

日本語の研究名は、「漸進的リラックス法とクラシック音楽が、注意・リラックス・ストレス反応の測定に与える影響」とできます。

原文では、参加者について次のように書かれています。

“Sixty-seven normal, male volunteers…”

日本語では、「67人の健康な男性ボランティア」という意味です。

この研究では、クラシック音楽だけでなく、体の力を順番に抜く方法、注意を向ける練習、静かに過ごす方法も比べています。

原文には、全体として心拍が下がったことを示す短い表現があります。

“decreased heart rate”

日本語では、「心拍が下がった」という意味です。

ただし、リラックスした感覚などでは、体の力を順番に抜く方法のほうが強い結果でした。記事で使うときは、「クラシック音楽だけが特別に強かった」とは書かないほうが安全です。

スイス:チューリッヒ大学中心のトーマ研究

2013年に、スイスのチューリッヒ大学を中心としたミリアム・V・トーマさんたちが発表した研究です。共著者には、ドイツのマールブルク大学の研究者も含まれています。

日本語の研究名は、「音楽が人のストレス反応に与える影響」とできます。

原文では、参加者について次のように書かれています。

“Sixty healthy female volunteers”

日本語では、「60人の健康な女性ボランティア」という意味です。

この研究では、ストレス課題の前に、リラックス音楽、水の音、無音の休息を比べています。測ったものは、コルチゾール、唾液αアミラーゼ、心拍、主観的なストレス感などです。

原文では、心拍と心理的な測定について次のように書かれています。

“HR and psychological measures did not significantly differ between groups.”

日本語では、「心拍と心理的な測定では、グループ間に統計的に大きな差は見られなかった」という意味です。

一方で、唾液αアミラーゼでは、音楽を聞いたグループに回復の速さが見られました。つまり、「音楽は全部の指標で一番よかった」とは読まず、「指標によって結果が違った」と読むのが自然です。

イタリア・イギリス:パヴィア大学とオックスフォード関連のベルナルディ研究

2006年に、イタリアのパヴィア大学のルチアーノ・ベルナルディさん、クラウディオ・ポルタさん、英国オックスフォードのジョン・ラドクリフ病院のピーター・スレイトさんたちが発表した研究です。

日本語の研究名は、「音楽家と非音楽家における、音楽の種類による心臓・脳血流・呼吸の変化:沈黙の重要性」とできます。

この研究では、音楽家12人と、特別な音楽訓練を受けていない人12人が参加しました。音楽を聞いている間の呼吸、血圧、心拍などを測っています。

原文では、沈黙について次のように書かれています。

“The pause reduced heart rate, blood pressure, and minute ventilation”

日本語では、「休止は心拍、血圧、分時換気量を下げた」という意味です。

さらに結論では、次のように書かれています。

“relaxation is particularly evident during a pause”

日本語では、「リラックスは休止のあいだに特にはっきり見られる」という意味です。

ヒーリングピアノの記事では、この研究を「休符や余白を大切にする理由」として使えます。ただし、「休符を入れれば必ずリラックスする」とは書きません。

ピアノ記事で使うときの書き方

読者向けの記事では、次の順番で書くと分かりやすくなります。

  1. どこの国・大学の研究か
  2. 誰が、何人を対象にしたのか
  3. 何と何を比べたのか
  4. 原文では何と書いてあるのか
  5. ピアノでは何をまねできるのか

ピアノへの置き換えは、難しく書かなくてよいです。

たとえば、「ピアノ演奏では、音を詰め込みすぎず、ゆっくり弾くと落ち着いた印象に近づきます」のように書けば十分です。

参考文献

  • ピーター・M・ショイフェレ「漸進的リラックス法とクラシック音楽が、注意・リラックス・ストレス反応の測定に与える影響」Journal of Behavioral Medicine. 2000. PubMed
  • ミリアム・V・トーマほか「音楽が人のストレス反応に与える影響」PLOS ONE. 2013. PLOS ONE
  • ルチアーノ・ベルナルディ、クラウディオ・ポルタ、ピーター・スレイト「音楽家と非音楽家における、音楽の種類による心臓・脳血流・呼吸の変化:沈黙の重要性」Heart. 2006. PMC

研究ページとしての読みどころ

このページで重要なのは、研究名を並べることではなく、音楽とストレス反応の関係がどれほど条件に左右されるかを知ることです。参加者がストレス課題を受けた後なのか、前なのか。音楽を自分で選んだのか、指定されたのか。測定したのがコルチゾールなのか、心拍なのか、主観的な不安なのか。こうした条件を分けないと、結果を過大に読んでしまいます。

ヒーリングピアノへ置き換える場合は、「この曲がストレスを下げる」とは書きません。代わりに、速すぎるテンポ、強すぎる低音、急な音量差、休む場所の少なさが、聴き手を急がせる可能性があると考えます。研究語をそのままコピーするのではなく、演奏で変えられる要素へ戻します。

Calm Pianoの独自性は、研究を結論の飾りにしないことです。研究は「断定するための武器」ではなく、表現を慎重にするためのブレーキとして使います。

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